卯月妙子「人間仮免中」（イースト・プレス）　＊読んだ感想ではありません

卯月妙子が新作を出したらしい。

卯月妙子の名前は以前から知っていた。

彼女の「実録企画モノ」をはじめて読んだときは衝撃だった。作品中に出てくる彼女の狂った日常に当時大学生だった僕はどう反応していいかわからなかった。

幸い、ギャグ漫画としての文脈を持っていたので、文脈に依存するかたちで僕も笑っていたが、これでいいのかという意識は絶えず心のなかに残った。なんなんだ、これは、と思った。不快感すら感じた。

それからしばらくして僕は大学生を卒業し、社会人になった。忙しくなり、いつしか彼女の名前は忘れていた。

今回新作情報に触れるかたちで彼女の近況を知った。彼女はあれから驚くべき人生を歩んでいた。統合失調症に陥り、歩道橋から飛び降り自殺し未遂。顔面から落ち右目を失明、バツイチ子持ちの彼女は今は年上の男と二人三脚で人生を歩み、今は幸せを感じているという。

これは絶対に読まないといけないと思った。「実録企画モノ」を読んだ身としては、この近況には異常な迫力があった。「実録企画モノ」をはじめて読んだとき、驚愕しながらも、僕はこの狂った日常を笑いに変えつつ乗り切っている彼女はとても強い人間だと思った。

僕は「うらやましいな。やっぱ女は強いよな～」とか思っていた。うかつだった。

彼女はやはり壊れたのだ。

いや、「実録企画モノ」の時点で既に壊れていたのかもしれない。笑えない日常を笑いで乗り切ろうとする際に彼女にいったいどれだけの血が流れていたのか。僕はなにもわかっていなかったのだ。

最大級の敬意を持って本書に臨もうと思っている。懺悔の念に駆られながら。

ただ、本書を購入したとして、読む勇気が自分にあるかまだわからない。なにしろ積読している「新家族計画」すらまだ読んでいないのだ。

壺中天日乗