壺中天日乗

メモ帳

桑原武夫編 「ルソー」(岩波新書)

内容は、ルソーの思想と人生を概説するというもの。

第一印象は・・・社会に対する憎悪が凄いわ。なんでここまで嫌うんだろうねえ。

受難続きの人生がそうさせたのか、そもそも生まれつきそうだったのか、おそらく両方なんかな。まあルソーの生きた時代が君主政で貧富の差が激しかったというのが大きいのだろう。

ルソーを理解するためには、まずルソーの人間観を理解しておく必要がある。「人間は本来、善である。」っていうんだよね。なんで人間は善なのにその人間が形成する社会は悪になるんだろうって思ったんだけど、それは「社会が人間性を捻じ曲げてる」んだって。昔は平和に生活してたのに、ずる賢いヤツのせいでこんなことになったんだって。未開人がそこまで善良かどうかは知らんけど、この意見に現代人の琴線に触れるものがあるのは確かだよな。

そういうわけで、「学問芸術論」では、曰く「学問・芸術は君主が国民を奴隷化するために利用された」。

「人間不平等起源論」では、「不平等の起源は私有、法律、政治制度である。国家はこういうペテンを認める事で、不平等を合法化してしまった。サイアク」といっているらしい。

小説仕立ての「エミール」では、「教育は必要だが、人間の本来もっている善を損なわない形でしないといけない。理性、道徳は良心をあくまでサポートするかたちで教えられなければならない」と言ってる。子供を「野蛮」じゃなく、「まだ汚れていない次世代を担う希望の星」みたいに扱っているのが特徴。これは当時としては革命的だったようだ。戦後の先生とかエミールをバイブルにしてる人もいたかもしれんね。

「社会契約論」はちょっと異質。社会が嫌いなのになんとか理想社会をつくろうってんだから気合が入るよな。まず国民ひとりひとりが誓約を交わす。「われわれは国家の決めたことに従うことを誓います」んで政府をつくる。法律は、「一般意志」を基にしてつくる。この法律っていうのが、かなり曲者っていうか、ここで権力闘争が発生しそうなんだけど、どうなんだろうね。まあ権力なしの「立法者」っていう法律のプロみたいな人を雇いましょうといっているけどね。しかもこの「立法者」は神レベルの知識と徳を持っていないとダメなんだって。難しいね。あとは国民が気に入らなければ政府はいつでも変更可能にする。代議士制度は否定しているから、ようは直接民主制にするんだって。まあ社会の腐敗可能性を考慮に入れたぎりぎりのラインが直接民主制なのかなーと思った。

あと、「最適な政治システムは人口によって変わる」といってるけど、この指摘は面白いと思った。「小国は民主政、中国は貴族政、大国は君主政」なんだって。そういやあ、あずまんが「ツイッターとかで直接民主制できる」って言ってたね。

 

「ネットがあれば政治家いらない」 東浩紀SNS直接民主制」提案

http://www.j-cast.com/2009/10/24052476.html

 

あとは国民の統合のために市民宗教を作るんだって。この本では具体的にはわからなかったけれど、「自由、平等、博愛」って感じなんかな。キリスト教は原罪とか言ってるから自然=正義と考えてるルソーには受け入れられないみたい。このキリスト教嫌悪は後の迫害の原因でもある。ただ、ルソー自身プロテスタントからカトリックに改宗したりしているからそのへんは謎。あとに再度プロテスタントに改宗してるし。キリスト教嫌いなんじゃないの?

ルソーもこの国家プランは実現困難と考えていたみたい。ただ後世に与えた影響は大きい。ロベスピエールも熱中したらしい。

「告白」は内容があけすけ過ぎて私小説の原点になっているんだって。あと文章も天才的なんだとか。自然の描写に感情を盛る文章が革新的だったらしい。「自分が自然につくられたと感じていたからこそ出来た」という指摘には納得。

しかしこの人の自己愛は凄いね。「自然=神であり、自然を心から愛している私の正しさは神が保障してくれている」みたいな。(言ってないけど。)

この人晩年は変人扱いされてたらしいけど、しょうがない気がする。ここまで自己肯定が激しいのに偉人になったのは、やっぱり天才だったと考えざるを得ない。(まあ当時は変人だったワケだけど。)

普通はよくて新興宗教の教祖だよな。それにしてもここまで世間から変人扱いされているのに、人間の善を信じる事って可能だろうか。晩年はかなり悲観的になったんじゃないのかな。「お前らのタメにやってるんだぞ!お前ら全員アホか!」とか思ってたんじゃないのかな。

ここまで迫害されてもなお発狂しなかったのは、マイ宗教を持ってたからじゃないのかな。「マイ宗教!教祖は俺」みたいなw

あと、「孤独な散歩者の夢想」の冒頭「俺は超いいやつなのにみんなが徒党を組んで俺を仲間はずれにする。悲しい」とか書いてあるのをみると、やっぱりどっかオカシイと思っちゃうね。

蛇足だけど、「むすんでひらいて」はルソー作曲だって。

そう思って聴くと、なんだか物悲しいような・・・

 

やっぱり原典にあたらないとダメだな。これは勘だが、ルソーは原典にあたった方が絶対面白いという予感がある。

原典には解説書にはない、変テコな文章が大量に含まれているハズ。

 

さて、いま手元に「世界の名著 ルソー」がある訳だが・・・

 

ルソー (1962年) (岩波新書)

ルソー (1962年) (岩波新書)

世界の名著 30 ルソー

世界の名著 30 ルソー