今回の選挙で思い出した事
今回の選挙をTVで見ていて、「世界の名著」(中公新書)のトクヴィル「アメリカのデモクラシー」のパラグラフを思い出した。
「アメリカのデモクラシー」は文字通りアメリカのデモクラシーを分析した本である。
成熟した大衆社会は、「諸条件の平等化」が起こり、そして以下のような弊害を生み出す。
①アパシー
平等化によって個人は社会的関連から断たれがちとなり、極小社会[家族、友人など]に閉じこもり、社会にたいする関心を喪失してしまう。そして専制の成立を容易にする。
②保守化
大衆社会は流動的なのであって、それだけに、大衆は既得の権益をゆるがし、かれらの小さい物質的生活をかき乱すところの大きな社会変革を嫌悪する。大衆社会の流動性とはいっても、それは「根本的なものにふれない」「一定の限界内での」ものにすぎない。
③多数専制
アパシーにおちいった大衆は、自己のせまい経験の領域では正確な思考をなしえても、ひろい領域についてはあいまいな思考しかできなくなる。こうして、マスコミのシンボル操作によって、いかなる多数=大衆の意見もつくることができることになる。
④集権化
以上の三つのもたらすものとして、あたらしい「カエサリスム」[専制]が生まれるだろう。しかもそれは、デモクラシーの形式を十分にみたしながらおこなわれることもできる。(世界の名著 p110)
1840年に出版された本にもかかわらず、今回の選挙にあてはまっている気がしてしょうがない。
また、産業の発達とともに「諸条件の平等化」は人間関係のあり方にも変化を与える。社会全体の流動化、動揺の中で、宿命的に現れてくるのは、絶対権を持つ国家とそれに直面する孤立した個人という社会構造である。
「孤立した個人」が幻想のレベルで「絶対権を持つ国家」と一体化したいという願望をもった結果、いわゆるネットウヨクというものは生まれるのだと思う。
この強大な国家とどう接するべきか?
その対策としては、トクヴィルによれば、一つは国家と個人の間に中間共同体を作ることである。長期的目的は、「大衆を教化し、権力への参加を媒介すること」、短期的には、「権力を抑制し権力から個人を防衛すること」である。
インターネットが既にこの「中間共同体」の役割をわずかだが果たしつつあると思う。
これからどう展開していくかは、私たち次第である。
ちなみにこの「世界の名著」は古典的名著45冊がコンパクトにまとまっていて、かなりいい本だと思うのだが、絶版になっている。図書館にあったら手にとってみることをお勧めしたい。
世界の名著―マキアヴェリからサルトルまで (中公新書 (16))
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- 作者: トクヴィル,松本礼二
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