深沢七郎「楢山節考」(新潮文庫)
結構ショックを受けた。
たしかにこれはリアルである。俺の知っているおばあさん(同居していた曾ばあさん、家の近くにあった駄菓子屋のばあさん)は確かにおりんばあさんにそっくりだった。おりんばあさんのような人物はたしかに存在する。俺は類型を何度も人生のうちに見てきた。しかしいままで小説世界では見たことがなかった。今回俺は「楢山節考」を読むことによって日本のばあさんに改めて向き合うことになった。ここまでしっかりと向き合ったのは人生初かもしれない。これを読んだ後は、他の小説が、なんか全然見当違いの事をしているような錯覚にとらわれた。「これが日本でしょ?これがリアルでしょ?みんな、なにやってるの?」とでもいわれているような気がした。たしかにこれはリアルである。日本である。俺は今まで何を見てきていたのだろうか?
三島由紀夫が気味悪がったっていうのは判る気がする。忘れていたものにいきなり背後から肩をつかまれたような感覚だ。
小説の構成は凝っている。作中に出てくる様々な歌の解釈は日本人なら納得できるものばかりで、小説に奥行きを与えている。姨捨の前日に村の姥捨て経験者が来てアドバイスするシーンとか、「帰るときは振返ってはいけない」「家から出るときは誰にも見られてはいけない」というアドバイス内容はいかにもありそうなリアリティがある。取材したのかな?
あと、姥捨て当日の雪のイメージとかカラスの大群のイメージの使い方なんて新人離れしていると思った。
文体もいいね。ちょっとドキュメンタリータッチだね。
- 作者: 深沢七郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1964/07
- メディア: 文庫
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